オトリを自分の下流側に入れ、竿を寝かせて引けば、その泳ぎは斜め上流対岸に向けて川を横切るような軌道を描く。ワイドな横への動きを伴うこの操作をする上で、Aほどマッチする調子はまず見つからない。しかし今は、単調な横操作だけでは勝てない時代である。その中で有岡が表彰台に居残り続けることができるのは、操作の精度とバリエーションを探求し続けてきた、引きつりの「巧者」に他ならないからだ。 TYPE Sを駆使して、石裏の緩流帯と流れの筋との境界を攻める「S釣法」を彼のもっともスローな操作とするなら、新しい「A90」に求められる操作の軸は円滑でテンポのよい引き。ただし今回は管理能力に優れたHがあるだけに、オトリが付いて来るだけでは役不足だ。「小型の鮎も想定すると、しなやかであるほどいい。でも、しなやか過ぎるとコントロールできない。だからパワーはそのままにVコブシを外し「ESS」で解析してもらって先端部の張りを抑えた。ただ、TYPE S よりも管理能力は上げたかったので節長はそれよりも短くしている。初代Aに戻った?そうじゃない。当時は先径が太く節も長く、頭(竿先)を残して胴が大きく曲がる。すごくいい竿だけど、今はもっと引きに繊細さがほしい」コントロール性能とパワー、そして繊細さの同居。言葉にすれば簡単だが、実現には相当の困難が待っていた。